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公開:2026年9月11日/最終更新:2026年9月11日

筋肉痛は乳酸のせいではない
遅発性筋痛を研究で整理する

よく言われるのは「乳酸がたまるから」「ストレッチで防げる」。研究が示しているのは、乳酸だけでは説明がつかないこと、そしてストレッチで減る痛みは100点満点で1点ほどだということです。

この記事の要点
  • 翌日に来る痛みは遅発性筋痛(DOMS)。筋肉が伸ばされながら力を出す動きで起こりやすい。
  • 原因の仮説は6つあり、乳酸説はそのひとつ。2つ以上の統合が有力で、単独では説明されない。
  • コクランレビュー12件:ストレッチによる翌日の痛みの減少は100点満点で0.5〜1点。臨床的に意味のある差ではない。
  • 2回目が痛くならないのは「反復運動効果」。現象は確立しているが仕組みは未解明。
  • 痛む間は筋力と動き方が変わる。早すぎる復帰は別の怪我のリスクを上げる。

よく言われていること——筋肉痛は乳酸がたまるせい。ストレッチをすれば防げる。
研究が示していること——乳酸だけでは説明がつかない。ストレッチで減る痛みは100点満点で1点ほど。

筋肉痛は、なぜ次の日に来るのか?

運動した直後ではなく、半日から一日おいてやってくる痛み。これには名前があります。遅発性筋痛(delayed onset muscle soreness、略してDOMS)といいます。「遅れて発生する筋肉の痛み」という、そのままの名前です。

この痛みが出やすい動きには特徴があります。筋肉が伸ばされながら力を出す動きです。専門的には「エキセントリック収縮」と呼びます。階段を下りる、坂を下る、ダンベルをゆっくり下ろす、しゃがみ込む——こうした動きです。

不思議に思うかもしれません。上る方がきついのに、痛くなるのは下った翌日です。これは、伸ばされながら踏ん張るときに、筋肉の内部で微細な損傷が起きやすいからだと考えられています。

研究のまとめによると、DOMSが最も多く起きるのはシーズンの初め、つまりしばらく休んでいた人が運動を再開したときです。また、時期に関係なく初めてやる種類の運動でも起こります(Cheung ら, 2003, Sports Medicine)。慣れていない動きが原因であって、頑張りが足りないからでも、頑張りすぎたからでもありません。

乳酸が原因、という説はどうなったのか?

「筋肉痛は乳酸がたまるから」という説明を聞いたことがある方は多いと思います。これは長く広まった説明ですが、現在の研究では、乳酸だけで説明できるとは考えられていません

DOMSの原因については、これまでに6つの仮説が提案されてきました(Cheung ら, 2003)。

仮説内容
乳酸説運動で生じた乳酸が蓄積して痛みを起こす
筋痙攣説筋肉が局所的に痙攣し続けて痛む
結合組織損傷説筋肉を包む膜や腱の側が傷つく
筋損傷説筋線維そのものが微細に損傷する
炎症説損傷に対する炎症反応が痛みを生む
酵素流出説損傷した細胞から酵素が漏れ出す

この総説の著者らは、「2つ以上の説を統合したものが、筋肉痛を説明する可能性が高い」と述べています。つまり、ひとつの原因に絞る段階にはまだ来ていません。乳酸説は候補の一つとして残ってはいますが、それ単独で説明できるという立場は取られていません

ここは正直に書きます。「乳酸は完全に無関係だと証明された」と言い切れるほど、話は単純ではありません。言えるのは、「乳酸のせい」という一言で片づけられる現象ではないということです。

痛みの強さは、傷の大きさを表していない

ここで、多くの人の直感に反する研究を紹介します。「遅発性筋痛は、エキセントリック運動による筋損傷の大きさを反映しない」という題名の論文です(Nosaka, Newton, Sacco, 2002, Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports)。

デザインは明快です。男子学生110名を3群に分け、肘を曲げる筋肉に最大のエキセントリック収縮を行わせました。

回数
12ECC群12回
24ECC群24回
60ECC群60回(12回群の5倍)

運動の前後と、その後4日間にわたって、次の項目を測定しています。最大等尺性筋力、肘関節の角度(伸ばしきれるか)、上腕の周囲径(腫れ)、そして血液中のクレアチンキナーゼ(筋の損傷で血中に漏れ出す酵素)。痛みは50mmの視覚アナログスケール(0が痛みなし、50が極度に痛い)で、押したとき曲げたとき伸ばしたときの3通りを評価しました。

損傷は5倍違ったのに、痛みは同じだった

まず、損傷の指標です。24回群と60回群は、12回群に比べてすべての指標で有意に大きな変化を示し、回復も遅くなりました(P < 0.05)。ここは予想どおりです。

ところが、痛みは違いました。

押したときの痛みと、曲げたときの痛みには、12回群と24回群のあいだにも、12回群と60回群のあいだにも、有意差がありませんでした。運動量が5倍違い、損傷の指標もはっきり違ったのに、痛みの強さは変わらなかったということです。

伸ばしたときの痛みだけは、12回群が有意に低い結果でした。痛みの測り方によって結果が変わるということでもあります。

さらに相関を調べると、押したときの痛みは、他のどの損傷指標とも有意な相関を示しませんでした。曲げたとき・伸ばしたときの痛みは、弱い相関(r < 0.32)にとどまりました。相関係数0.32は「かすかに関係がある」という程度です。

これが意味すること

実用的な含意は、2つあります。

  • 「ひどく痛い=ひどく傷ついた」ではありません。痛みが強くても損傷が大きいとは限らず、痛みが軽くても損傷がないとは限りません。
  • 逆に、「痛くないから大丈夫」とも言えません。痛みを損傷の目安として使うこと自体に無理があります。

「筋肉痛が来ないと効いた気がしない」という感覚は、この研究とは相性が悪いということになります。筋肉痛は、トレーニングの効果を測る物差しとしては使えません。

ストレッチで防げるのか?

これについては、質の高い answer があります。コクラン共同計画という、医療の効果を厳しく評価する国際的な組織がまとめたレビューです(Herbert, de Noronha, Kamper, 2011, Cochrane Database of Systematic Reviews)。

12件の研究が対象になりました。そのうち1件は参加者2,377名という大規模なもので、1,220名がストレッチを割り当てられました。残り11件は、ストレッチ群が10〜30名の小さな研究です。

結果を、痛みを100点満点に換算して示します。

いつストレッチしたか翌日の痛みの減少読み方
運動の前0.52点(95%信頼区間 −11.30〜10.26)信頼区間が0をまたいでおり、差があるとは言えない
運動の後1.04点(95%信頼区間 −6.88〜4.79)同上
前と後の両方(大規模研究1件)1週間のピーク時で3.80点(95%信頼区間 −5.17〜−2.43)統計的には有意。ただしレビュー著者自身が「非常に小さい」と明記

「95%信頼区間」というのは、真の値がありそうな範囲のことです。この範囲に0が含まれていると、「効果がない」という可能性を否定できないという意味になります。前2つはまさにその状態です。

レビューの結論はこうです。「運動の前、後、あるいは前後のいずれにストレッチを行っても、健康な成人において臨床的に意味のある程度には遅発性筋痛を減らさない」。

100点満点で1点というのは、痛みの感じ方として区別できる差ではありません。ストレッチに他の目的(可動域を保つ、気分を整える)があるなら続けてかまいませんが、筋肉痛を防ぐ手段としては期待しないほうがよい、というのが現時点の答えです。

マッサージはどうか——2つのレビューの温度差

予防ではなく「なってしまった後」について、マッサージを検討した研究があります。ただしここは、レビューによって評価が分かれているので、両方を並べます。

レビュー規模結論
Dupuy ら 2018
Frontiers in Physiology
99研究マッサージが、筋肉痛と主観的疲労を減らすのにもっとも効果的な方法と思われる
Davis ら 2020
BMJ Open Sport & Exercise Medicine
29研究・1,012名筋力・跳躍・スプリント・持久力・疲労の改善の証拠は見つからなかった。柔軟性と筋肉痛には小さいが統計的に有意な改善

同じ対象を扱いながら、一方は「もっとも効果的」、もう一方は「小さいが有意」と述べています。矛盾ではなく、比較の相手と測り方が違うためです。Dupuy らは他の回復法と比べたうえでの相対評価、Davis らはマッサージ単体の効果量の絶対評価に近い読み方をしています。

安全側に読むなら、こうなります。マッサージで筋肉痛はいくらか和らぐ。ただし「劇的に効く」と期待するほどではない。そしてパフォーマンスそのものを上げる効果は確認されていない。

気持ちよさや、体を点検してもらう機会としての価値は、これらの数字には表れません。そこを目的にするなら、効果量の議論とは別に判断してよい部分です。

2回目は、なぜ痛くならないのか?

経験的にご存じの方も多いと思います。久しぶりの運動で強烈に痛んでも、次の週に同じことをすると、痛みはずっと軽くなります。

これには名前がついていて、「反復運動効果」(repeated bout effect)と呼ばれます。一度エキセントリック運動を行うと、その後の同様の運動による筋損傷から筋肉が守られるという適応です(McHugh, 2003, Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports)。

ただしこの総説は、「その仕組みはまだよく分かっていない」とも明記しています。神経の使い方が変わる、結合組織が強くなる、炎症の反応が変わる——いくつもの説明が提案されていますが、決着はついていません。

実用的な意味は明快です。最初の1回が一番痛い。そこを乗り越えれば、同じ運動での筋肉痛は自然に軽くなっていきます。「毎回この痛みが続くのか」と不安になる必要はありません。

では、どうすればよいのか?

予防について、確実に効くと言える方法は、残念ながらありません。ただし、次の点は研究から言えます。

  • 新しい運動は、最初から全力でやらない。DOMSは慣れていない動きで起こります。初回の量を抑えれば、痛みの程度も抑えられます。
  • ストレッチは、筋肉痛予防としては期待しない。やって悪いものではありませんが、効果は100点満点で1点程度です。
  • 痛みが引くまで数日かかるのは正常です。異常ではありません。

そして、ここが実はいちばん重要です。Cheung らの総説は、DOMSが関節の動く範囲、着地の衝撃を吸収する能力、最大の筋力を低下させると報告しています。さらに筋肉の使われる順番や動員のパターンが変わるため、普段とは違う負担が靱帯や腱にかかります。

痛みが残っているうちに早く復帰しようとすると、別の怪我のリスクが上がります。これは「根性がない」という話ではなく、体の動かし方が実際に変わってしまっているためです。痛む間は、同じ部位に強い負荷をかけない。これが最も確かな対処です。

さらに詳しく知りたい方へ

この記事では筋肉痛そのものを扱いました。関連する話題は、次の記事で扱っています。

運動そのものの効果について、一次文献にあたった記事があります。
ヨガとピラティスについては、腰痛・体組成・メンタルヘルスなど疾患別・アウトカム別に、コクランレビューやメタアナリシスを読み解いた記事をオンザショア立川店のサイトに公開しています(ピラティスと慢性腰痛ヨガと腰痛など)。

立川周辺で実際に始める場所を探している方は、スタジオの選び方に、公式情報だけで整理した比較の観点をまとめています。

このサイトと上記2サイトは、いずれも株式会社エッセンが運営しています。利害関係があることを明示したうえで、本文では効果を断定せず、分かっていないことは分かっていないと書いています。

この記事の限界

  • コクランレビューが対象とした研究は、質が高いものばかりではありません。すべての研究が中程度から高いバイアスのリスクにさらされており、エビデンスの確実性は「低い〜中程度」と評価されています。
  • 大規模研究1件を除き、参加者は10〜30名と小規模です。数字はそのまま一般化できません。
  • DOMSの原因はまだ確定していません。6つの仮説のうちどれが、どの程度寄与しているのかは分かっていません。本文の説明も暫定的なものです。
  • 「反復運動効果」の仕組みも未解明です。現象としては確立していますが、なぜ起こるかは分かっていません。
  • 痛みが1週間以上続く、腫れがひどい、尿の色が濃い、といった場合は、通常の筋肉痛ではない可能性があります。医療機関を受診してください。ここに書いたことは一般的な情報提供であり、医学的助言ではありません。

よくある質問

筋肉痛は乳酸がたまるからですか?

乳酸説は提案されている6つの仮説のひとつですが、それ単独で説明できるとは考えられていません。総説では「2つ以上の説を統合したものが説明する可能性が高い」とされています。一方で「乳酸は完全に無関係」と言い切れるほど決着もついていません。

ストレッチをすれば筋肉痛は防げますか?

コクランレビュー(12研究)では、運動前のストレッチで翌日の痛みは100点満点で0.52点、運動後で1.04点しか減りませんでした。いずれも信頼区間が0をまたいでおり、効果がない可能性を否定できません。著者らは「臨床的に意味のある程度には減らさない」と結論しています。

なぜ運動の翌日に痛むのですか?

筋肉が伸ばされながら力を出す動き(階段を下りる、ゆっくり下ろすなど)で微細な損傷が起きやすく、その後の反応として痛みが出ると考えられています。ただし詳しい仕組みは確定していません。

2回目は痛くならないのはなぜですか?

「反復運動効果」と呼ばれる適応で、一度その運動を行うと次回の筋損傷が軽くなります。現象としては確立していますが、なぜ起こるのかは分かっていません。

痛いときに運動してもよいですか?

痛みが残る間は最大筋力や関節の動く範囲が下がり、筋肉の使われ方も変わります。普段と違う負担が腱や靱帯にかかるため、同じ部位に強い負荷をかけるのは避けてください。痛みが1週間以上続く、腫れがひどい、尿の色が濃いといった場合は受診してください。