- 21研究422効果量のメタ分析。筋肉のサイズは筋トレのみ1.23/両方0.85/有酸素のみ0.27。
- 筋力は筋トレのみ1.76/両方1.44/有酸素のみ0.78。両方やった群も「大きい」効果を得ている。
- 干渉が有意だったのはランニングと組み合わせた場合のみ。自転車では見られなかった。
- 有酸素の時間との負の相関が強い(−0.29〜−0.75)。頻度との相関は弱め(−0.26〜−0.35)。
- 干渉は「やったかどうか」ではなく「どれだけやったか」で決まる。
よく言われていること——有酸素運動をすると、筋トレの効果が消える。両方やるのは非効率。
研究が示していること——両方やっても筋肉はしっかり増える。干渉が起きたのは走った場合だけで、自転車では起きなかった。
「干渉効果」という言葉の出どころ
筋トレと有酸素運動を並行して行うことを、研究では併行トレーニング(concurrent training)と呼びます。そして、両方やると筋トレ単独より効果が落ちる現象を干渉効果といいます。
この話の出発点は1980年の研究です。持久的なプログラムに筋力トレーニングを足すと、筋力だけを鍛えた場合に比べて脚の筋力の伸びが損なわれた——という観察でした(Berryman ら, 2019, International Journal of Sports Physiology and Performance による整理)。
ここから「有酸素は筋肉を減らす」という言い方が広まりました。しかし40年分の研究を集計すると、話はかなり違って見えてきます。
両方やると、本当に筋肉はつかないのか?
21件の研究から422の効果量を集めたメタ分析があります(Wilson ら, 2012, Journal of Strength and Conditioning Research)。筋トレだけ、有酸素だけ、両方、の3つを比べたものです。
効果量は変化の大きさを表す数字で、0.2で小さい、0.5で中くらい、0.8で大きい、が目安です。
| 測ったもの | 筋トレのみ | 両方(併行) | 有酸素のみ |
|---|---|---|---|
| 筋肉のサイズ | 1.23 | 0.85 | 0.27 |
| 筋力 | 1.76 | 1.44 | 0.78 |
| パワー(瞬発力) | 0.91 | 0.55 | 0.11 |
読み方を整理します。
- 両方やった群は、3つすべてで「中くらい〜大きい」効果を得ています。筋肉のサイズ0.85、筋力1.44。これは「つかない」という水準ではありません。
- 筋トレだけの群のほうが数字は上です。干渉は確かに存在します。
- しかし有酸素だけの群とは、はっきり差がついています。筋肉のサイズで0.85 対 0.27、筋力で1.44 対 0.78。
つまり「有酸素をやると筋肉がつかない」ではなく、「筋トレだけのときよりは伸びが小さくなる」が正確な表現です。そして多くの人にとって、比較すべき相手は「筋トレだけの自分」ではなく「何もしない自分」です。
干渉が起きるのは、どんなときか?
同じメタ分析は、どういう条件で干渉が起きるのかも調べています。ここがこの研究のいちばん有用な部分です。
1. 走ったときだけ干渉が起きた
筋トレと組み合わせた有酸素運動が「ランニング」だった場合には、筋肉のサイズと筋力の両方に有意な低下が見られました。しかし「自転車」の場合には、低下は見られませんでした。
同じ有酸素運動でも、種目によって結果が違ったということです。走る動作は着地の衝撃を繰り返し受け、脚の筋肉が伸ばされながら力を出す場面が多くなります。この違いが関係している可能性があります(ただしメカニズムは、この研究からは特定できません)。
2. 時間が長いほど、回数が多いほど干渉が大きい
有酸素運動の時間と頻度は、筋肥大・筋力・パワーのいずれとも負の相関を示しました。
| 有酸素運動の条件 | 相関係数 | 読み方 |
|---|---|---|
| 1回あたりの時間 | −0.29 〜 −0.75 | 長いほど干渉が大きい。相関はかなり強い |
| 週あたりの頻度 | −0.26 〜 −0.35 | 多いほど干渉が大きい。相関は弱め |
相関係数は−1から+1の値を取り、絶対値が大きいほど関係が強いことを示します。時間のほうが、頻度よりはっきりした関係を持っていました。
著者らの結論はこうです。「干渉効果は、選択された持久的トレーニングの種目・頻度・時間の関数である」。つまり干渉は「有酸素をやったかどうか」ではなく、どれだけやったかで決まります。
どちらを先にやるべきか
前の節で紹介したメタ分析は、実施順序までは分析していません。しかしこれは多くの人が知りたい点です。別の研究を2つ見てみます。
ヒトを対象にした12週間の比較
男子スポーツ学生48名を、最大有酸素スピードで均質な5群に分けた研究があります(Chtara ら, 2005, British Journal of Sports Medicine)。週2回・12週間のトレーニングを行い、順序の効果を調べました。
| 群 | 内容 |
|---|---|
| E(10名) | ランニングの持久トレーニングのみ |
| S(9名) | 筋力サーキットトレーニングのみ |
| E+S(10名) | 同じセッション内で持久 → 筋力の順 |
| S+E(10名) | 同じセッション内で筋力 → 持久の順 |
| C(9名) | 対照群 |
4kmタイムトライアル、最大有酸素スピードの推定、疲労困憊までの時間、最大酸素摂取量を測定した結果、著者らはこう結論しています。
同じセッションで持久トレーニングの直後に筋力サーキットを行う順序(E+S)が、逆の順序や、それぞれ単独で行う場合よりも、4kmタイムトライアルと有酸素能力の改善が大きかった。
ただし、この研究が測ったのは有酸素側の成果です。筋肥大については測定されていません。
体の中で何が起きているのか(動物実験)
順序が結果を変える理由について、分子レベルで調べた研究があります(Ogasawara ら, 2014, American Journal of Physiology - Endocrinology and Metabolism)。これはラットを使った実験である点に注意してください。
ラットを5群に分けました。持久運動のみ、抵抗運動のみ、持久→抵抗、抵抗→持久、非運動対照です。
| 測定したもの | 結果 |
|---|---|
| p70S6K のリン酸化 (筋タンパク質合成を促す経路の指標) | 両方の順序で増加したが、「抵抗→持久」のほうが増加が小さかった |
| タンパク質合成 | 「持久→抵抗」で、抵抗運動の6時間後に大きく増加 |
| AMPK と Raptor のリン酸化 (エネルギー不足を感知する経路) | 「抵抗→持久」でのみ増加 |
おおまかに言うと、こういう話です。筋トレは「筋肉を作れ」という信号(mTORC1経路)を出します。持久運動は「エネルギーが足りない」という信号(AMPK経路)を出します。筋トレの後に持久運動をすると、せっかく立ち上がった「作れ」の信号の上に「足りない」の信号がかぶさる——という説明になります。
実用的な結論
2つの研究は、対象も測定項目もまったく違います。しかし示す方向は同じです。
同じ日に両方やるなら、持久運動を先に、筋トレを後にするほうが無難です。
ただし、次の点は押さえておいてください。
- ヒトの研究は有酸素能力を測っており、筋肥大は測っていません。「筋トレを後にすれば筋肉がつく」という直接の証拠ではありません。
- 分子機構の研究はラットです。ヒトで同じことが起きる保証はありません。
- 日を分ければ、この問題自体が発生しません。時間が取れるなら、そちらのほうが確実です。
- 差は大きくありません。順序を気にしすぎて運動そのものが減っては本末転倒です。
一般の人にとって、これは何を意味するか
この研究の被験者の多くは、競技者やトレーニング経験者です。数字をそのまま当てはめることはできません。それでも、方向性としては次のことが言えます。
- 週に数回ウォーキングや自転車をしながら筋トレをしても、筋肉がつかなくなる心配はまず要りません。干渉が問題になるのは、長時間・高頻度のランニングを並行した場合です。
- 気になるなら、有酸素の種目を自転車にする。このメタ分析では、自転車での干渉は見られませんでした。
- 時間を短くするほうが、回数を減らすより効きます。時間との相関のほうが強く出ていました。
- 同じ日にやるか、別の日にするか。この研究では、そこまでは分けて分析されていません。気になる場合は日を分ければ確実です。
そもそも、多くの人にとって筋肉を最大化することは目的ではありません。心肺機能と筋力はどちらも健康に関わる別々の要素で、両方に取り組むこと自体に価値があります。「どちらかに絞らないと無駄になる」という考え方は、この研究からは支持されません。
なお、有酸素運動の消費カロリーについては期待とずれが大きい領域です。こちらは運動の消費カロリーは思ったより小さいで扱っています。
さらに詳しく知りたい方へ
- 筋トレは週何回が正解か——健康のためなら週30〜60分で最大のリスク低下。しかもJ字型でした。
- 座りすぎは運動で相殺できるのか——100万人の解析。必要な活動量は1日60〜75分でした。
- 筋肉痛は乳酸のせいではない——両方やると痛みが増えるのか、痛みの読み方。
「有酸素か筋トレか」で迷う必要はありません。
心肺機能と筋力は健康に関わる別々の要素で、両方に取り組むこと自体に価値があります。ヨガやピラティスは、この2つの中間に位置する運動として選ばれることが多いものです。実際に何が期待でき、何が期待できないのかは、オンザショア立川店のサイトに、腰痛・体組成・姿勢・メンタルヘルスなどアウトカム別の一次文献ベースの記事があります。
種目の選び方そのものは、目的別の選び方に、公式情報だけで整理してあります。
このサイトと上記2サイトは、いずれも株式会社エッセンが運営しています。利害関係を明示したうえで、本文では効果を断定していません。
この記事の限界
- このメタ分析は2012年時点のもので、対象は21件の研究です。その後も研究は続いており、結論が更新される可能性があります。
- 参加者の多くはトレーニング経験者や競技者です。運動習慣のない人が始める場合、干渉よりも「どちらもよく伸びる」効果のほうが大きく出る可能性があります。
- 相関は因果ではありません。「時間が長いほど干渉が大きい」という関係は観察されましたが、時間そのものが原因だと確定したわけではありません。
- 「走ると干渉、自転車なら干渉なし」は、この分析での結果です。なぜそうなるのかは特定されていません。
- 効果量は集団の平均です。個人差があります。
- 持病のある方は、運動の種類と量について主治医にご相談ください。ここに書いたことは一般的な情報提供であり、医学的助言ではありません。
よくある質問
有酸素運動をすると筋肉が減りますか?
21研究を集計したメタ分析では、筋トレと有酸素を両方行った群でも筋肉のサイズの効果量は0.85、筋力は1.44で、いずれも「大きい」部類でした。筋トレのみの群(1.23/1.76)よりは小さくなりますが、有酸素のみの群(0.27/0.78)よりはっきり上です。「つかない」ではなく「伸びがやや小さくなる」が正確です。
どんなときに干渉が起きますか?
同じ分析では、ランニングと組み合わせた場合に筋肉のサイズと筋力の有意な低下が見られましたが、自転車では見られませんでした。また有酸素の1回あたりの時間が長いほど干渉が大きく、相関はかなり強いものでした。
筋トレと有酸素、どちらを先にやるべきですか?
このメタ分析では実施順序までは分析されていません。気になる場合は日を分ければ確実です。
週2〜3回のウォーキングと筋トレを両方やっても大丈夫ですか?
干渉が問題になるのは長時間・高頻度の持久的トレーニングを並行した場合です。週数回のウォーキングや自転車であれば、筋肉がつかなくなる心配はまず要りません。
どちらか一方に絞るべきですか?
心肺機能と筋力は健康に関わる別々の要素で、両方に取り組むこと自体に価値があります。「絞らないと無駄になる」という考え方は、この研究からは支持されません。