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年をとると代謝は落ちるのか|「40代から太る」広告と生涯のエネルギー消費の測定
「成人期の20〜60歳では安定している」。これはPontzer(2021)が示した、除脂肪量で調整した消費エネルギーについての記述の日本語訳です。「年をとるほど代謝が落ちる」という印象と違って聞こえますが、意味をつかむ鍵は「調整した」にあります。除脂肪量とは、体重から脂肪の重さを除いた、筋肉や臓器などを含む部分の重さです。
立川駅北口で電車を降り、以前は歩いた道をバスに乗り換えるようになった、といった生活の変化を思い浮かべてみます。服の腰回りが窮屈になると、広告で目にする「40代から太る」という言葉が自分に重なることもあるでしょう。けれども、その変化は年齢による代謝低下だけで説明できるのでしょうか。年齢とともに消費エネルギーは変わりますが、体組成の違いを調整した研究は、中年期に一律に代謝が落ちるという説明を支持していません。
ここで、実際に体重が増えたという経験を否定する必要はありません。体を動かす量、食べ方、体の中身の変化を分けると、年齢だけでは見えなかった確認点が出てきます。研究が測った値と自分の暮らしをつなぐには、まず「代謝」が何を指すかをそろえることが出発点です。
基礎代謝と年齢を比べる前に、何の消費量かをそろえる
代謝とは、体の中で物質を作ったり分解したりする働きのことです。体重についての広告では、主にエネルギーを使う働きという意味で使われます。しかし、横になって休んでいる間の消費量と、通勤や家事を含む日全体の消費量は別の指標です。「代謝が落ちた」という説明に数字が添えられていたら、その数字の対象を先に読みます。
基礎代謝は、食事や運動の影響を抑えた一定の条件で、生命を維持するために使うエネルギーを測る考え方です。安静時代謝は、休んでいる状態の消費エネルギーを指し、基礎代謝とは測定条件が異なります。日全体の総消費エネルギーには、それらに加えて体を動かす分や食事に伴う消費なども含まれます。広告の見出しに基礎代謝とあっても、根拠が総消費エネルギーの研究なら、測ったものの名前を読み替える必要があります。
Manini(2010)は、加齢と消費エネルギーを整理した総説で、高齢になると安静時の分と体を動かす分の両方が低下すると述べています。総説とは、あるテーマの研究を読み合わせ、全体像を整理した論文です。安静時の変化には臓器の重さや組織ごとの代謝が関わり、活動による消費の変化には脳の調節や生活環境も関わると整理しています。年齢が同じでも、仕事の内容や移動の機会が違えば、日全体の消費の条件も変わります。
そのため、「最近あまり歩いていない」と「休んでいても使う量が減った」は、分けて扱いたい観察です。前者には移動や家事の記録が役立ち、後者は体感だけでなく測定の条件を要する話になります。代謝はひとつの数字ではありません。使っている指標を確かめるだけでも、年齢を理由にした説明のどこまでが研究に沿っているかが見えてきます。
20〜60歳でほぼ一定だったのは、体の中身を考慮した値
Pontzer(2021)は、二重標識水法を用いた生涯にわたる消費エネルギーのデータを分析しました。二重標識水法は、目印となる安定同位体を含んだ水を飲み、尿などからその減り方を調べて、日常生活で使ったエネルギーを求める方法です。安定同位体とは、放射線を出さず、通常のものと重さが異なる原子を指します。運動の自己申告だけに頼らず、日全体の消費を捉える点が、この研究を読む際の強みです。
結果は、除脂肪量で調整した消費エネルギーが20〜60歳でほぼ一定で、その後の高齢期には低下するというものでした。比較しているのは、生涯の異なる年齢にいる人たちの測定値です。ここでの「調整」は、体の大きさや中身による違いを統計的に考慮して、年齢との関係を見やすくする操作を意味します。測った消費量をそのまま年齢順に並べた結果とは区別して読みます。
たとえば、筋肉や臓器などの量が異なる人の消費エネルギーを比べると、その違いも数字に含まれます。研究では、その影響を考慮したうえで成人期の安定した傾向が見えた、という順序です。「同じ人が中年期を通して同じ量を消費し続ける」という保証にすると、調整の意味と個人差が抜け落ちます。この研究の中心は、年齢そのものと体組成の違いを切り分けた点にあります。
この結果から見ると、中年期の体重増加には、年齢による代謝の変化よりも活動量や食事の変化が大きく関わる可能性があります。体組成とは、脂肪や筋肉など、体を構成するものの割合や量のことです。体重の変化を考えるときには、年齢、体組成、生活の変化を別々の項目として並べると、確認すべきことが具体的になります。
「調整あり・なし」と「日全体・安静時」を表で分ける
調整後の値は、年齢との関係を調べるための比較に役立ちます。一方、調整前の実際の消費量は、その人の現在の体格や生活を含んだ値です。どちらかだけが正しいのではなく、答えようとしている問いが異なります。体重について考える場面では、調整後の集団の傾向と、自分が実際に食べて動く生活の両方に目を向けます。
広告のグラフを読むときは、縦軸の名前と、比較した人の年齢を見ます。次に、体重や除脂肪量の違いを考慮した値かを図の説明で確認します。以下のように軸を分けると、「年齢とともに下がる」という短い言葉の中に、違う種類の比較が含まれていることがわかります。
| 比較の軸 | 見ているもの | 年齢との関係を読む際の確認点 |
|---|---|---|
| 調整なしの消費量 | 体格や体組成、活動の違いも含む実際の値 | 年齢以外に、体の中身や生活がどう違うか |
| 除脂肪量で調整した消費量 | 体の中身による影響を考慮した比較の値 | Pontzer(2021)では20〜60歳でほぼ一定 |
| 日全体の総消費量 | 安静時に加え、日常の活動などで使う量 | 通勤や仕事、家事を含む生活条件は何か |
| 安静時の消費量 | 休んでいる状態で使う量 | 測定条件、臓器や組織の量、対象年齢は何か |
広告に「年齢に応じた対策」と書かれていたら、対策の効果を測った研究も別に読みます。加齢と消費エネルギーの関係を観察した研究と、ある方法を使って体重が変わったかを試す研究では、必要な比較が異なります。前者は年齢差を説明し、後者は使った人と比較相手の差を検討します。背景にある仕組みの説明から、商品や方法の効果の説明へ進むところが、広告の根拠を確かめる読みどころです。
高齢期の低下と、中年期の安定は両立する
年齢と代謝を扱う研究には、低下を述べるものもあります。St-Onge(2010)は、加齢に伴う体組成の変化と、安静時の代謝の変化の関係を整理しました。そこで取り上げた横断研究や短い追跡研究では、体組成の変化だけでは説明しきれない安静時代謝の低下が見られています。横断研究は、異なる人をある時点で比べる方法で、同じ人の経過をたどる追跡研究とは区別されます。
この整理とPontzer(2021)の結果を比べるときは、まず何歳の人を対象にしたかをそろえます。次に、安静時か日全体か、体組成のどの違いを考慮したかを見ます。安静時の変化を論じた結果と、日全体の調整後の傾向は、焦点が違います。さらに、高齢期の低下はPontzer(2021)でも示されており、成人期の安定と高齢期の低下は同じ生涯の中で両立します。
St-Onge(2010)が挙げる課題は、体組成が変わるから代謝が変わるのか、代謝の変化が体組成に影響するのかという順序です。長期に同じ人を追う研究が乏しく、この因果の順序は未決着とされています。体重が増えたという結果だけから、その前に代謝が下がったと決めるのは、順序を先取りする読み方になります。研究の違いは、新しい論文が古い論文を打ち消すと考えるより、測った対象の違いから読み解くほうが筋道が通ります。
研究の弱さを確かめる際には、対象者の偏り、追跡の長さ、資金源も確認項目です。とくに広告が研究名を挙げている場合は、その論文と広告の商品との関係も読む対象になります。今回の根拠は、消費エネルギーの観察と加齢を整理した総説であり、特定の商品による減量効果の大きさを比較した試験とは性格が異なります。
体重の変化を、暮らしの変化と並べてみる
「年齢のせい」と思ったときは、体重が気になり始めた時期と生活が変わった時期を並べてみます。通勤が減った、座って働く時間が増えた、外出の機会が減ったなど、運動以外の変化も記録の対象です。食事なら、食べた内容だけでなく、間食や飲み物、食べる場面も振り返ります。記憶の中の「昔と同じ」を、今の暮らしの具体的な内容に置き換えるための作業です。
生活記録は、失敗の理由を探したり、意志の弱さを判定したりするためのものではありません。仕事や介護、痛みなどによって、動きたくても動ける機会が減ることもあります。Manini(2010)が身体活動による消費と環境の関わりを扱ったように、動く量は本人の気持ちだけで決まるものではありません。調整できそうな場面を探すときも、時間や体調の制約を一緒に記しておきます。
食事や活動を見直すなら、今の生活のどこを変えるかを具体的にします。間食が増えた場面を見直す、移動の中に無理なく歩ける機会を探すなど、記録に対応した工夫が考えられます。ここで大切なのは、「代謝が低いはずだから」と食事も運動もまとめて厳しくすることではなく、体調を保ちながら経過を見ることです。体重だけでなく、疲れやすさや食欲、日常の動きやすさも一緒に見ます。
広告を検討する場合にも、年齢を使った説明と、自分が期待する変化を並べます。求めているのが体重の変化なのに、根拠が安静時の測定値だけなら、評価している結果に隔たりがあります。研究を読むときの確認文は、「その数字は、どの年齢の人の、何を、どんな条件と比べたものか」です。対象と測定がそろっているかを確かめてから、自分の判断材料にします。
急な体重変化は、年齢のせいで片づけない
体重の変化には、甲状腺の病気、更年期に伴う変化、薬の影響などが関わることもあります。甲状腺は、体の代謝を調節するホルモンを出す器官です。更年期の不調があるときも、体重だけでなく、ほてりや睡眠など生活への影響を一緒に伝えると、相談したい内容が明確になります。年齢だけを理由に、自分で原因を決める必要はありません。
食事や動き方を大きく変えていないのに体重が急に増減した場合は、医療機関で相談します。動悸、強い疲労、むくみなどを伴う場合には、体重の経過と症状が始まった時期をまとめて伝えます。薬を使い始めたり変更したりした時期も、診療の際の手がかりになります。薬の影響が気になっても自己判断で中止せず、処方した医師や薬剤師に相談します。
年齢による消費の変化を恐れて、食事を極端に減らす方法は、食が細い人や意図せず体重が減っている人には向きません。制限を強めたあとに、めまいや強い疲れが出る場合は、その方法を続けることより体調の確認を優先します。持病があって食事や運動について指示を受けている人は、その条件に沿って見直します。妊娠中の体重管理も、一般の減量広告を基準にせず、妊婦健診で相談する内容です。
今回取り上げた研究は、年齢に応じた減量法の有害事象を比較したものではありません。そこで、ある方法の安全性を判断するときには、方法そのものを試した研究で、どのような不調が報告されたかを別に確認します。「年齢に合う」という言葉だけで安心せず、食事の制限や運動の負担が自分の状態に合うかを見ます。体重への働きかけは、体調を守れる範囲で選ぶことが基本です。
よくある質問
中年期に太った実感は、研究結果と矛盾しますか
矛盾しません。Pontzer(2021)が示したのは、除脂肪量で調整した集団の傾向であり、個人の体重が一定だという結果ではありません。体組成、活動量、食事の変化がある生活の中で体重は変わるため、増え始めた時期の暮らしを振り返ると、研究と自分の経験を分けて考えられます。
60歳を過ぎたら、すぐ食べる量を減らすべきですか
年齢の区切りだけで、一律に食事を減らす必要はありません。高齢期の消費エネルギーの低下という集団の結果と、現在の食事がその人に合っているかは別の判断です。食欲や体重の経過、活動の状態を見て、体重が意図せず減っている場合や持病がある場合は、食事を削る前に診療で相談します。
「代謝を上げる」という表示は、どこから読みますか
まず、測ったのが安静時の消費量か、日全体の総消費量かを見ます。次に、対象者の年齢や体組成、何と比べたか、期待する結果が体重なのか消費量なのかを確認します。加齢についての説明に納得できても、商品や方法の効果は、それを試した比較研究の結果から判断する必要があります。
この記事の限界
適用範囲は、生涯の消費エネルギーを測った研究と加齢を扱う総説から、年齢を使った広告の説明を検討するところまでで、日本人の個人ごとの必要な食事量や減量法を決めるものではありません。異なる年齢の人の比較と短い追跡を含む知見が中心で、体組成と代謝のどちらが先に変わるかを確かめるには、長期に同じ人を追ったデータが課題として残っています。本稿は研究を読み解く情報であり、個別の診断や食事・運動を処方する医療の助言ではありません。急な体重の増減や動悸、強い疲れがあるときは、生活の変化と症状の経過を記録して医療機関に伝え、年齢の印象よりも実際の体調を判断の起点にします。年齢と代謝の広告が比べたのは、体組成をそろえた集団なのか、実際に暮らす人の消費量なのか、その違いを見落としていませんか。
参考文献
- Pontzer ほか. Daily energy expenditure through the human life course. Science. 2021;373(6556):808-812.
- Manini. Energy expenditure and aging. Ageing Res Rev. 2010;9(1):1-11.
- St-Onge ほか. Body composition changes with aging: the cause or the result of alterations in metabolic rate and macronutrient oxidation? Nutrition. 2010;26(2):152-155.
広告を疑う目を持ったまま、溶岩の床に立ってみる
- 向く人: 効果の話を研究の規模と比較の条件で割り引いて聞ける人
- 向く人: 暑い部屋で体を動かす時間そのものを習慣にしたい人
- 向かない人: 汗の量や翌朝の体重の減り方で効果を判定したい人
- 向かない人: 腎臓や心臓の持病で、暑い環境での運動を医師に止められている人
このサイトはオンザショア立川店の運営者が制作しています。立川駅から徒歩1分、溶岩プレートの床で行うホットヨガのスタジオです。
よくある質問
中年期に太った実感は、研究結果と矛盾しますか
矛盾しません。Pontzer(2021)が示したのは、除脂肪量で調整した集団の傾向であり、個人の体重が一定だという結果ではありません。体組成、活動量、食事の変化がある生活の中で体重は変わるため、増え始めた時期の暮らしを振り返ると、研究と自分の経験を分けて考えられます。
60歳を過ぎたら、すぐ食べる量を減らすべきですか
年齢の区切りだけで、一律に食事を減らす必要はありません。高齢期の消費エネルギーの低下という集団の結果と、現在の食事がその人に合っているかは別の判断です。食欲や体重の経過、活動の状態を見て、体重が意図せず減っている場合や持病がある場合は、食事を削る前に診療で相談します。
「代謝を上げる」という表示は、どこから読みますか
まず、測ったのが安静時の消費量か、日全体の総消費量かを見ます。次に、対象者の年齢や体組成、何と比べたか、期待する結果が体重なのか消費量なのかを確認します。加齢についての説明に納得できても、商品や方法の効果は、それを試した比較研究の結果から判断する必要があります。