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睡眠不足で筋トレの効果は落ちるのか|睡眠の長さと筋力・体組成の研究
「食事からとるエネルギーを減らしているとき、睡眠の量は除脂肪量の維持に関わる」。Nedeltcheva(2010)は、睡眠を短くした減量試験をこのように結論づけています。寝室で明日の予定を見ながら、睡眠を削ってでも筋トレの時間を確保するべきかと迷う人にとって、気になる結果です。寝不足で鍛えた分が無駄になるのか、という疑問には、何を測った研究かを分けて答える必要があります。
睡眠を削ると、その日の運動の質や筋たんぱく質の合成、減量中の除脂肪量の維持に不利な変化が見られますが、長期の筋トレの成果がどれほど減るかは未解明です。 研究に出てくる除脂肪量とは、体重から脂肪を除いた部分で、筋肉のほか水分なども含む量です。持ち上げる動作の速さ、体内でたんぱく質を作る速さ、体の組成は、それぞれ異なる測定結果です。広告でそれらがまとめて「筋肉への効果」と表現されているときは、まず結果の名前に目を向けると、数字の意味をつかみやすくなります。
減量試験で変わったのは除脂肪量の減り方
Nedeltcheva(2010)は、米国の過体重の成人を対象に、食事のエネルギーを制限しながら寝床にいる時間を変えた試験です。同じ参加者が長い睡眠の条件と短い睡眠の条件を順番に経験する、交差試験という方法を使いました。普段からよく眠る人と、忙しくて眠れない人を集めて比べる調査よりも、人による体質や生活の違いを抑えて睡眠条件を比較しやすい設計です。参加者は筋トレをしておらず、調べたのは食事制限中の体組成でした。
寝床の時間は 8.5 時間と 5.5 時間です。Nedeltcheva(2010)では、長い条件での除脂肪量の減少は 1.5 kg、短い条件では 2.4 kg でした。この比較の時間は、眠るために確保した時間を指します。寝床に入ってから起きるまでの枠を決めているので、すべての時間に眠っていたという意味で読むと、試験の条件を取り違えます。
Nedeltcheva(2010)で脂肪の減少をみると、寝床の時間が長い条件では 1.4 kg、短い条件では 0.6 kg でした。短い条件では空腹感も強まっています。体重の減少だけを成功の印にすると、脂肪とそれ以外のどちらが減ったかという違いが隠れます。減量中に睡眠を確保する意味は、体重計の表示をさらに下げることより、減った中身に目を向けると理解しやすくなります。
除脂肪量の変化を、そのまま失った筋肉の重さとして宣伝する読み方には問題があります。筋肉を直接測った結果として扱うには、水分などを含む指標から筋肉の部分を取り出す必要があるからです。Nedeltcheva(2010)が示したのは、睡眠条件によって脂肪と除脂肪量の減少の配分が変わったという結果です。筋トレで筋肉を増やそうとしている人が知りたい長期の変化とは、測定の対象も生活条件も異なります。
この試験を自分の予定に生かすなら、食事を減らす計画と、寝る時間を削る計画が重なっていないかを見直す材料にします。除脂肪量の数字だけを見て、急に食事や運動を増減する判断には結びつけません。研究では食事制限がある状態で睡眠を変えており、睡眠だけを独立した減量法として試したわけでもありません。食事と休息の条件を一緒に読むことが、この結果を受け取る出発点になります。
睡眠不足と筋トレの関係は、まず当日の成績に表れる
Craven(2022)は、睡眠を短くしたときの運動成績を通常の睡眠と比較した研究をまとめています。対象は 69 本の論文に含まれる 227 の測定結果で、筋力のほか持久力や技能なども扱いました。複数の研究の結果をまとめて計算するメタ分析により、全体として睡眠不足が運動成績を下げる方向を示しています。筋肉の大きさを追い続けた試験の集まりではなく、その日の動作や運動課題の成績が中心です。
時間帯で分けた結果には違いがあり、Craven(2022)では、午後に行う運動課題は睡眠不足による低下が一貫して見られた一方、午前の課題はほとんど影響を受けませんでした。徹夜した場合や、早く起きることで睡眠を短くした場合に成績が下がりやすいという傾向もありました。単に「寝不足」と呼ぶだけでは、どのように睡眠が減ったかという条件が抜け落ちます。
この時間帯の結果は、寝不足が避けられない日の運動を考える際の参考になります。ただし、研究どうしの結果には大きなばらつきがあり、参加者も男性に偏っています。朝に運動するためにさらに早く起きて睡眠を削るという使い方は、睡眠不足の影響を小さくしたいという目的と食い違います。予定の変更では、運動の開始時刻だけでなく、前夜から確保する睡眠まで含めて考えます。
当日の成績には、決めた重さを扱う力や、動作を繰り返す力などが含まれます。これに対し、鍛錬の効果とは、練習を重ねた後に筋力や筋肉量がどう変わるかという時間の長い問いです。Craven(2022)は何週間もの鍛錬の効果を測った研究ではなく、睡眠を短くした直後の運動を評価しています。寝不足の日に記録が下がったときは、その日の条件を記録に添えることで、これまでの練習全体の評価と混同しにくくなります。
バーの速さと、筋たんぱく質を作る速さ
実際の筋トレに近い条件を扱ったKnowles(2022)では、筋トレ経験がある 18〜35 歳の健康な女性 10 人が、寝床の時間を 5 時間にした期間と、7 時間以上とした期間を経験しました。それぞれ 9 晩の条件を、順序を無作為に決めて比較しています。自分自身の通常睡眠の期間と比べるため、もともとの筋力の個人差だけで結果を説明しにくい方法です。
Knowles(2022)では、睡眠を短くした期間に下半身の複数の関節を使う種目で、バーを持ち上げる平均の速さが最大 15% 遅くなりました。上半身の種目では同じ変化は見られず、扱った重さと回数を合わせた総量の減りはごくわずかでした。同じ相対的な強さでも、本人はよりきつく感じていました。予定した量をこなせたという記録の陰で、動作の質と負担感に違いが出た試験です。
「最大」という言葉にも意味があり、Knowles(2022)の割合を、あらゆる種目でいつも同じだけ遅くなる数字として読むと、下半身と上半身で結果が違った点を消してしまいます。また、バーの速度の低下率を、筋肉の成長の低下率に置き換えることもできません。種目、測った動作、本人の負担感を添えて読むと、睡眠の影響がどこに現れたかを捉えられます。
体内の反応を調べたLamon(2021)では、健康な若い男女が完全な徹夜と通常の睡眠を経験しました。徹夜の翌日には、食後の筋たんぱく質の合成速度が 18% 低くなっています。筋たんぱく質の合成は、筋肉を構成するたんぱく質を新しく作る過程です。この実験では筋トレをさせず、筋肉量や筋力を結果として測っていません。
Lamon(2021)では、筋の分解に関する指標には差がありませんでした。合成側の変化を見つけたことと、体に蓄えられた筋肉の総量を測ることは、評価の手順が異なります。合成速度の低下を、そのまま筋肉が失われた割合に読み替えると、分解側やその後の経過を飛ばすことになります。徹夜の翌日の体内反応として受け止めると、短期の測定に見合った意味になります。
運動量がほぼ保たれたKnowles(2022)と、合成速度が低かったLamon(2021)は、互いに打ち消し合う結果ではなく、違う面を測った研究です。前者は女性の筋トレ動作、後者は若い男女の食後の体内反応を評価しました。睡眠の削り方も、継続的に短くする条件と、完全に眠らない条件にわかれています。広告が両方をまとめて「筋トレの効果が低下」と述べているなら、測定名が省かれていることに注意して読みます。
運動を加えると合成速度が保たれた試験もある
Saner(2020)には、睡眠を短くしても筋たんぱく質の合成速度が保たれた条件があります。健康な若い男性 24 人を対象に、通常の睡眠、短い睡眠、短い睡眠に運動を加えた条件を比べました。睡眠を管理する準備期間の後、5 晩の介入期間を設けています。運動は自転車で強い運動と休息を繰り返す高強度の間欠運動でした。
Saner(2020)では、睡眠を短くしただけの群では合成速度が下がりましたが、運動を組み合わせた群では通常の睡眠の群と同じ水準が保たれました。合成を調節するとされる分子の指標には、どの群にも変化が見られませんでした。合成速度という測定結果と、関連する分子の測定結果も、常に同じ動きをするわけではないことが読み取れます。
運動を加えた条件で結果が変わった点は、睡眠だけで筋肉の反応を一律に決める説明を見直す材料になります。一方で、この試験は睡眠を削ってよい根拠ではありません。自転車の間欠運動による短期の合成速度を調べており、長期の筋肉量や体調を保証する試験ではないからです。寝不足を埋め合わせるために強い運動を追加する行動へ進む前に、測った範囲を確認する必要があります。
研究を並べると、睡眠条件を変えた点は共通していても、対象や結果の読み方が違います。次の表では、人数や期間を示せる研究はその条件を添え、各研究が実際に測った結果を並べています。
| 研究(著者 年) | 対象と人数 | 睡眠の条件 | 期間 | 測ったもの | 結果 |
|---|---|---|---|---|---|
| Nedeltcheva(2010) | 過体重の成人 | 寝床の時間 8.5 時間と 5.5 時間 | 短期の食事制限中 | 脂肪と除脂肪量 | 短い条件で除脂肪量の減少が大きい |
| Craven(2022) | 男性に偏る研究集団、69 本の論文 | 通常の睡眠と睡眠不足 | 急性の睡眠不足後 | 当日の運動成績 | 午後に低下が一貫、午前は影響が小さい |
| Knowles(2022) | 筋トレ経験のある女性 10 人 | 寝床の時間 5 時間と 7 時間以上 | 各 9 晩 | バーの速度、総量、負担感 | 下半身の速度が低下、総量の減少は小さい |
| Lamon(2021) | 健康な若い男女 | 完全な徹夜と通常の睡眠 | 徹夜の翌日 | 食後の筋たんぱく質の合成速度 | 徹夜後は 18% 低い |
| Saner(2020) | 健康な若い男性 24 人 | 通常、睡眠制限、睡眠制限と間欠運動 | 介入は 5 晩 | 筋たんぱく質の合成速度 | 運動を加えた条件では水準を維持 |